白色度70の再生紙なら古紙はもっと使える
パネラー寄本勝美(早稲田大学政治経済学部教授)
大橋耐二(富士ゼロックスオフィスサプライ株式会社専務取締役)
安部英和(大阪市環境事業局指導課長)
湯浅恭介(社団法人日本青年会議所副会頭)
半谷栄寿(オフィス町内会事務局代表)

※役職は当時のものを記載

 
古紙の需要を生みだす
 
安部  大阪市内に約8万件ある事業所のうち、床面積3000平方メートル以上の大規模事業者はたった2.1%ですが、ごみの量は全体の20%を占めます。そして、ごみの48%がオフィスの紙ごみです。
大規模建築物に立ち入り調査や指導をすると必ず出てくる苦情が、リサイクルはやりたいが、回収会社さんが引き取ってくれない、ロットが集まらないと回収してくれない、あるいは逆有償になってしまう、というものです。古紙がダブついているので、商売にならないから回収会社さんが引き取りに行けないし、言うまでもなく、赤字になってまで商売はできません。そういう意味で、根本治療としてはやはり需要拡大だと思います。教科書などに古紙を使ったり、白色度70のコピー用紙を使わなければならないと思います。
これから私の持論を申し上げて問題提起をしたいと思います。決して大阪市の公式見解ではなく、24年間ごみ行政をやっているこてこての大阪人の主張だと思って聞いて下さい。古紙混入を優遇する一番簡単な方法は、木材パルプの輸入と製造に環境保護税をかけること。または脱墨設備など古紙関連施設を対象とした低利融資制度をつくることです。
 このようにして、価格体系を変更しないことには需要は拡大できないのではないでしょうか。もし、トイレットペーパーで白いものを使いたい人がいたら、それに高いお金を払っていただければいいわけです。
 とは言うものの、トイレットペーパーは真っ黒じゃ困りますし、真っ赤では痔がわからなくなるのですが(笑)。
 ヨーロッパで使われている程度の茶色であればいい、安ければいいじゃないかというユーザーもいます。基本的にはそういった市場メカニズムを変化させるような枠組みがないと、啓蒙やPRだけではなかなか普及しないのではないでしょうか。

寄本 「適度なリサイクル」という言い方をすることがあります。
「適度な」とあえて言う意味の一つが、需要と供給の関係です。
 古紙が集まり過ぎて値段が落ちてしまうと、果たしてリサイクルなんてする必要があるのかと疑問をもつことがあります。ですが、我々が必要とする古紙の量を仮に100だとすると、集まり過ぎて困る量はせいぜい103か104です。3か4余っただけでも集まり過ぎて余剰化し、値段が下がってしまうのです。これは再生紙の市場を動かせば、吸収可能な量なのです。そのように見ていくと、少し余っている分、古紙の需要を増やすしかないと思います。

大橋  古紙の値段は場所にもよりますが、1キロでだいたい5円から10円です。非常に安い。したがって、古紙のストックヤードを新たに作るには採算がとれず、製紙工場のヤードを除いた古紙の保管容量は全国の古紙使用量の十数日分しかないのです。それで、先生がおっしゃったように、回収量が使用量より2〜4%多いだけで余ってしまうのです。
 今まで、製紙メーカーやサプライヤーには、古紙をどういう製品に何%使うかが問われてきました。例えば富士ゼロックスの「Green100」というコピー用紙には古紙を100%、「ホワイトリサイクル」には70%使うことになっています。でもこのように決めてしまうと、古紙の回収量とバランスをとることが難しくなります。  ある大手製紙メーカーの社長は、次のように言っています。「新聞紙や段ボールは、一番採算のとれた古紙配合率になっている。コピー用紙も同じように、古紙配合率が何%かを重視するより、回収率に見合った、経済性を考慮した配合率を採用すればよい」。
 それと全く同じことを、我々は実施しようとしています。富士ゼロックスのグループだけで、日本全体の紙の0・8%を扱っており、板紙を除けば1・2%ですので、我々の会社が100あると日本の紙を全部使ってしまうほどの量になります。そのようにある程度の規模をもつ会社としては、まず回収された分だけは確実に使いましょうという方針で古紙利用を進めています。

半谷 市場原理でどういう紙にどれだけ古紙を使うかという選択権が、基本的には製紙メーカーやサプライヤーのサイドにあったほうが、企業の活力も増しますし、リサイクル社会へのエネルギーにもなると思います。それは十分わかっています。
 しかし、なぜオフィス町内会がコピー用紙をターゲットにしたかと言うと、今のダブつきの問題に関して、コピー用紙が量的にもキャスティングボードを握っているからです。古紙の余剰というのは、年間の古紙の使用量が1500万トンぐらいですから、その4%として約60万トンです。一方、コピー用紙は年間70万トンほど生産されていますから、もしコピー用紙がすべて再生紙に切りかわれば、マクロ的にはそこでダブつきはなくなるんです。それには、我々社会人が最も身近に使っているコピー用紙を、再生紙のしかも白色度の適切なものに切りかえて、需要を生み出す必要があります。
 そして、白色度70なら、ダブつきが心配されている新聞古紙や雑誌古紙を原料として使えます。白色度80には、これらの古紙は使えません。
 
コストと白さの壁

寄本 「適度なリサイクル」の、もう一つの側面はコストです。リサイクルにも環境コストがかかるので、適度なリサイクルにとどめておかないとかえって負担を大きくするという見方があります。もっともな指摘ですが、よく考えてみると、製品をつくるときに後で環境コストをかけないような仕組みをつくることができるし、リサイクルの可能性も大きくなることがあるわけです。たとえば、紙とプラスチックが複合製品になっているから、リサイクルするときに制約ができてしまう。つくる段階でもっと考えれば、リサイクルの可能性を大きくすることができると思います。

大橋  古紙パルプも、木材チップからのパルプもつくれる工場で、同条件で比較した場合、古紙パルプの方が安くつくれます。また、当社の試算によりますと、白色度70%の再生紙は80%のものに比べて、使用する木材資源は約4分の3、漂白する薬品量は約3分の2ですみます。このように、同じ条件の場合には、確実に白色度70%の再生紙の方が環境にいいと言えます。
 しかし、コピー用紙や白い紙をつくる工場では、残念ながら古紙パルプをつくる設備を持っていない場合が多いのです。新たに設備を導入しようとすると莫大なコストがかかってしまいます。一方、日本でつくられる紙パルプの原料の比率は、古紙と木材チップがだいたい半々ですから、どの工場でも、古紙パルプをつくれる設備と木材からパルプをつくれる設備を両方とも備えるようにして、天然パルプと新聞古紙パルプ、上質古紙パルプをうまくミックスして製品をつくるべきだと思います。
 富士ゼロックスグループは、紙を本業とするサプライヤーとしてどれだけ古紙を使うかが大切なことです。2000年には全ての製品に古紙パルプを入れる計画です。回収と使用のバランスをとるために、日本の紙の約0・8%を取り扱っている当社が、社会的な責任から、回収する量に見合うだけの古紙を使おうと努力しています。我が社の取り扱う紙全体に平均すると古紙パルプを35%ぐらい入れればつりあう計算になるので、それを第一の目標にしています。そして、2000年には50%にすることを目指しています。これは当社の紙の場合、古紙から古紙パルプをつくる歩留まりが75%なので、古紙配合率に換算すると67%にもなります。
 どこの工場でも、白色度70%の再生コピー紙がつくれるという条件になれば、原料や薬品が20〜30%削減できますし、環境にも非常によいのです。
 ただし、いくら環境にいいものをつくっても、お客様に受け入れてもらわなければ意味がありません。再生コピー用紙でも白色度60%の製品はほとんど普及しませんでした。我々としても利益を得て、企業を存続させ、次の発展をしていかなければならないので、環境面だけでなく品質もコストも当然いいものをつくっていこうとしています。ユーザーとメーカーを結ぶサプライヤーの立場から、今後できるだけユーザーの皆さんにわかりやすいデータを提供した上で白色度70の再生紙を使っていただき、製紙メーカーさんにも白色度70の紙を生産してもらうよう、努力したいと考えております。

会場(製紙メーカー) いろいろな古紙がある中でも新聞古紙の発生量は莫大で、かなりの量がごみになっています。でも新聞古紙は比較的集めやすい。そこで、今まで木材パルプでしかつくれないと言われていたコピー用紙に新聞古紙を使おうと、私たちは考えました。
 古紙パルプとはいっても、機能が劣るようではいけません。まずは機能性を完壁にクリアすること。次に、色の問題です。まさに新聞古紙が持つデメリットで、非常に難しい問題として最後まで残りました。最初は白色度65%の商品を市場に投入しました。そして、わずか1年で70まで上げざるを得ない状況になりました。つくる側と消費者との間で、いろいろな意味で綱引きがあったのです。ついに白色度72%を達成しましたが、新聞古紙を使ってこれ以上上げると、メーカーにとって経済的に致命傷になりかねないので、かたくなに白色度70を保ち続けて今に至りました。
 オフィス町内会の運動で、消費者の皆さんに白色度70の合意ができあがることを本当に期待しています。これからは、木材パルプと古紙の商品が共生しなければならないと思います。

再生紙をユーザーが率先して使う

寄本  リサイクルしやすい製品にユーザーが関心を持てば、環境負荷自体を減らせるし、リサイクルの需要の拡大にもつながります。

会場(環境庁) 先ほど、日本全体のコピー用紙の消費量が大体70万トンというお話がありました。政府だけでは、1996年度ベースで大体2万2000トンのコピー用紙を消費しています。この数字は追跡できた範囲ですので、実際はもう少しあると思います。つまり生産量の3%以上のコピー用紙を政府で消費しているのです。非常に大きいエンドユーザーということになります。
 受付で配っていただいた封筒の中に、環境庁の資料が二枚入っています。「環境負荷の少ない推奨リストの分野別ガイドライン」という両面コピーの紙と、もう一枚が「情報用紙に関する個別製品リスト」という片面コピーの紙です。ちなみにこれは環境庁でコピーをとりましたが、古紙混入率100%、白色度70%です。
 今回、国として、環境庁だけではなく国のすべての省庁に白色度70%程度以下、古紙混入率70%以上のコピー用紙を推奨することを決定しました。古紙混入率は、2000年度までに100%に上げることにしています。
 国という超大型ユーザーが、コピー用紙を購入する場合に白色度70の再生紙を推奨するのです。まさに今回、後援させていただいた白色度70シンポジウムの方向に沿って、国が動き始めたということです。

湯浅  再利用やリサイクルは、これからの社会に不可欠です。ただ、経済と環境はどうしても両極にあり、かなり自己矛盾を抱えながら生活し、経済活動を続けていかなければならないことは、自分としても葛藤する部分です。
 環境にやさしい製品が高いのは当然のことと受けとめて、環境税みたいなものをみずから払っていく覚悟を持たないと、なし得ないのかなと思います。無駄なものはできるだけ使わない、あるいは断るという勇気も必要ですが、自分自身商売人として生きている以上、その矛盾と闘いながら環境にやさしく、かつ経済的な利便性にのっとるよう、自分なりにクリアしていきたいと思います。この点、白色度70は環境と経済を両立させるものです。
 青年会議所に所属する6万3000人の企業市民にも、上からやれと声をかけるのではなく、みずから白色度70%の紙を使ってもらうような戦略を仕掛けているところです。

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